M8(エムエイト)
by高嶋哲夫
集英社 ?1900(4.82 ?/P)
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高校時代に阪神淡路大震災で多くのものを失った経験の有る3人を中心にした、愛と友情の東京直下型大地震顛末記です。
見どころはなんといっても被災の瞬間。
上空のヘリコプターから地下鉄の暗闇まで立体的な細かいシーンの連続でそれぞれが微妙にリンクしています、これは作者の筆圧の高さがうかがえてなかなか圧巻です。
それと瓦礫の下から聞こえる、「世界で立った一つの花」の着メロとか、泣かせどころも満載、
もう、おすすめの一冊です。

まず感じたのが「すごいなぁ、これ。きっと作者の頭の中じゃ完璧に地震のシミュレーションが出来てるんだろううなぁ」です。
このリアルさは、その前段階の取材調査の程が伺えますね。
新幹線の脱線や、災害救助隊の熱血、ネット社会の情報の早さ、先日の中越地震がなぞるようなかたちになっています。
中越地震直後のこの時期にチト重いなぁとおもったんだが、逆に今読んで良かったと思っております。
「行く河の流れは絶えずしてしかも元の水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまりたる試しなし。世の中にある人と栖(すみか)とまたかくのごとし……」<方丈記
中心に居る3人は青春まっただ中の高校時代に、鴨長明が<世の不思議>と呼んだたぐいの阪神大震災によって、その人生が一気に暗転しました。
話の中心人物瀬戸口は大学で地震を研究しています、アパートの取り壊しで住むところを無くしホームレス状態で流されるように生きているのだが、コンピューターシミュレーションによる地震予知の元祖とも言うべき人物と出逢って、東京直下型大地震を世界で初めて完全に予知をするけど、半信半疑のと東京都知事以外誰にも受け入れてもらえない、しかし地震はやってくる。

中心人物の瀬戸口は何となく、鴨長明に重なるような気がする、PTSDにとりつかれ、物欲を無くし、没落しかかる我が身に自嘲的になる、それこそ無常という言葉が身に滲みている、それもこれも予知が適中して後世に名を残す偉業を成し遂げる事で、カタルシスに至る。
……さぁどうでしょう?
他の二人、陸上自衛隊松浦一尉は自ら望んで出世コースとはほど遠い施設大隊所属。
自立した強い女性風だがPTSDをかかえる議員秘書亜紀子は阪神淡路大震災で片足を失っている。
この三角関係は亜紀子を真ん中にして友情から恋愛感情までの途中のどこかナノだが、この青臭い宙ぶらりんな歯痒さ、結構好きかもしれません^^

しかし、この小説の主役はなんといっても地震です、その激しさですべてを飲み込んでしまうモンスターです。
それに立ち向かう人間のなんと非力な事、しかしその非力さがドラマを生むんだなぁ、これが。
また、その傷跡を乗り越えてゆく強さを持っているのも事実です。
しかし死んでゆく人、助かる人、その被害を人に伝えるために数字でくくられる事の現実感の無さはどうよ?
けして量ではない計るなら質だろうと思う、ただし人の死を計る事ができるならだ。
1人死んでも1万人でもそれぞれに苦難が有る、その計り知れない苦難から立ち上がるためには全ての力を使いきる事が要求されるでしょう。

DEC "04 かずひこ
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