孤将 金薫 Kim hun 蓮池薫訳
新潮社 ?1800-(2.97?/P)

c846ac77.jpg

原題は「刀の詩」と言う意味。
あの蓮池薫氏の翻訳であることには、後から気づいたのですが、
意外とちゃんとした(ごめんなさい)翻訳で、読みやすく深みがあるんです。
少しこなれてないところもあるようですが、全体の沈うつな感じとか、美しい海とその向こうからやってくる理解不能な敵の存在感、王(宣祖)のわがままで押し付けがましい泣き言が、冷たい刀の気配と生々しい肉の感触として、よく伝わってきます。
ただし、朝鮮の風習や、歴史的知識と認識の問題などなど、すっ飛ばして書いてあるので、少し戸惑うかもしれません。
でも、自分自身を無力として捉える一人の男の苦悩は、リアルで切実です。

お話は秀吉の朝鮮出兵が舞台で、その朝鮮王朝側の水軍司令官「李舜臣」(いすんしん)が主役。
だから、時代的には読書感想文#47「許浚」(ほじゅん)と同じなんですね。
許浚が診療日誌を担いで野山を逃げ惑っているころ、李舜臣は崩壊した水軍で秀吉軍と戦っていたわけです。
だから、朝廷サイドの様子を知りたいなら許浚の方もどうぞ。
全篇彼の日記を基にした一人称の物語であり、武将としての彼より、苦悩する一人の男として描かれています。
猜疑心の強い王や、建前ばかりの廷臣たちの政争、荒れた国内と、兵糧もままならない朝鮮軍と日本軍の姿。
全てが李舜臣の苦悩の源なのです。

武将としての勤めは戦に勝つ事ですが、彼自身としては、負けて死ぬ場所を探しているのです。
その思いは、とある妓生(きーせん:個人財産として扱われる娼婦、身分は賤民)の存在と対比される様に浮き上がります。
友人のところで抱いたその娼婦は、戦役をくぐり抜けてまで李舜臣を追いかけて来て、一晩抱かれた後で、殺してくれと懇願します、ですが彼はその願いに答えません。
結局、彼女は秀吉軍の将軍の慰み者になって死んでしまうのです。
その、死ぬべき時を間違えた(させた)哀れな姿は、その後たびたび塩辛のような彼女の匂いとともに李舜臣を苦しめます。

国を守り、強敵をはねのけ、悲運の中で死んでゆく。
この稀題の英雄は、中国史で言えば金と戦った宋の岳飛将軍ってところでしょう。
では、日本であてはまる人はというと・・山本五十六元帥?ちょっと違うよなぁ。
だれかいないですか?
プロフィール

sigremal

タグクラウド
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ